丸山隆平主演舞台『マクベス』を振り返る
もう一度、会いたい。
ウィリアム・シェイクスピア没後400年にあたる2016年、6月26日から7月24日までグローブ座の名を冠した劇場で上演された丸山隆平主演舞台『マクベス』。
幸いなことにライブビューイングと一度の観劇の機会に恵まれました。
昨年末、‘’BEST STAGE Re:ACT of 2016‘’ と ‘’STAGE SQUARE Playback STAGE 2016‘’ で丸山くんの舞台を振り返るインタビュー記事を読んで思いを馳せていました。
そして先日、演出鈴木裕美さんの ‘’シナリオ5月号 私たちの好きなシェイクスピア‘’ と題した座談会記事を読み、また想いをつのらせています。
鈴木さんによるとこの時の舞台は、
演目『マクベス』が先に決まって、ジャニーズ事務所が丸山隆平にやらせたい
ということだったよう。
以前丸山くんが、事務所が持ってくる仕事には信頼をおいているというような話をしていたのを思い出しました。
マクベス前の雑誌取材で、丸山くん自身は、
高すぎる壁からは極力逃げたい方だけれど、事務所がいい柔軟剤を持っていて、かたくなになる前にほぐしてポンと背中を押してくれる
と言っていました。
鈴木さんが座談会で『マクベス』についていろいろ語っておられます。
とにかく若いキャスティングで。
これから子供を作るはずだった夫婦の話だから、ほんとは50代であるはずがない。
若い人があまりやらないことについては、
マクベスはある程度の腕がないとできないですからね。
と。
それから、
シェイクスピアは言葉が難しく高尚なものと思いがちだけど、実際はエロとグロに満ち溢れている。
読むだけでなく公演を観ると良い。
ただ台詞を言っただけでは面白くない、俳優と演出家が素敵じゃないと、特に俳優が素敵じゃないと。
後半はシェイクスピア全般についての言及ですが、こう話すくらいだから、先の『マクベス』は、演出家自ら意欲的に若いキャストで取り組み、素敵な俳優たちだと自信を持って送り出した舞台だったと思って良いのだろうか。
ラブラブだということでやりたかった。
僕の伴侶を王妃にさせてあげたかった、というふうに演って、と言った。
奥さんはマクベスがそれを思っているのを知ってるから、それに乗ってあげなくちゃいけない。
最後の場面の演出については、
最後マクベスが戦う時、妻の幻覚を見て正しい男として潔く死んでいくというラストにしました。
男はこうなんなきゃいけないんだと、正しい男像みたいなものを二人(マクベスと夫人)で作ろうとしている話だと思ったから。
鈴木さんの言葉通り、マクベス夫婦の瑞々しくも痛々しい愛情を感じる物語になっていたなと思います。
年末の雑誌で、丸山くんがマクベスを演じる中で芽生えた感情として語っていたこと。
稽古中から、早くマクベスとして死にたいって思ってたんですよ。稽古だとなかなか死んでる感じがしなくて。マクベスの早く楽になりたいって境地まで行きたいとずっと思ってましたね。僕にはマクベスを演じていて、刺されて解放される感覚があったんですよ。本番一回一回、ちゃんとマクベスとして死にたいと思っていました
マクベスを演じていたというより、マクベスであったと表したほうが良いのでは、と思わされる言葉だけれど、 稽古中の丸山くんは役には引っ張られないとも言っていたっけ。
久しぶりにマクベスの訳本を開いてみました。
明日、また明日、また明日と、時は小きざみな足取りで一日一日を歩み、ついには歴史の際の一瞬にたどりつく、、、
人生は歩きまわる影法師、あわれな役者だ、舞台の上でおおげさにみえをきっても、出場が終われば消えてしまう、、、
第五場、夫人の死の知らせを受けたあとのマクベスのこの台詞の箇所に、観劇後の覚え書きのようなメモを残していました。
舞台上手側上段
台詞を言うまで間をとって
なにかを堪えるような表情のマクベス
悲しみが深すぎて何も映さないような瞳
呼吸を忘れてしまうような美しさ
ここが Tomorrow speech として有名だということは後から知ったのですが、初めて観たライブビューイングで、この場面のマクベスに胸が締め付けられて苦しかったのを覚えています。
第八場、マクベスとマクダフの戦いの場面にもメモを残しています。
舞台上段に魔物と亡霊(ダンカン、マクベス夫人、バンクォー)
マクベスは夫人の亡霊を見て、再びマクダフと戦うことを決意
慈愛と覚悟が入り混じったような表情で夫人を見るマクベス
マクベスとマクダフの激しい戦い、最初は剣で、やがて取っ組み合いに
マクダフの剣がマクベスの胸に突き刺さる
光り
そのまま舞台奥へ
全面に血、滝のよう
困惑、野心、嫉妬、愛情、悲嘆、絶望、狂気など、丸山くんのあらゆる感情表現と、放たれる色気に心を揺さぶられ、光を宿したり失ったりと様々に色を変える目に心を奪われた舞台でした。
けれど記憶はだんだんと薄れていくし、何度も観たくなる魅力のあるものだったから、映像化されないことが本当に残念。
観ることが叶わなかった人にも、これから丸山くんを知る人にも観てもらいたいのになぁ。
いつかまた舞台に立ち、新しい世界へと誘ってくれる丸山くんに会いたいものです。